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デザイン経営に対する調査結果

デザイン経営と売り上げの関係は? 調査で判明、顧客満足にも影響

本デザイン振興会(東京・港)と三菱総合研究所が企業のデザイン活用の実態を共同で調査した結果、第1回の調査よりもデザインへの投資や将来への期待を前向きに捉えていることが明らかになった。「デザイン経営」に積極的な企業ほど売り上げが増加し、顧客からも従業員からも愛される、という結果が

デザイン経営に積極的な企業ほど、売り上げが増加​し、顧客からも従業員からも愛されるという結果が出た

デザイン経営に積極な企業ほど、売り上げが増加
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 今回の調査は、2020年2月の第1回に続き、23年3月に実施。日本デザイン振興会が実施している「グッドデザイン賞」に応募した5855社に聞き、「デザイン経営」に対する積極度とビジネスの成果指標との関係、デザイン経営の推進状況の変化などを把握することが狙い。493社から得た回答は、調査リポート「第2回 企業経営におけるデザイン活用実態調査 日本企業におけるデザイン経営の効果と取組みの現状」として、同年9月に発表した。

 デザイン経営とは、デザイナーの発想法などを活用することで、企業のブランドの構築やイノベーションの創出などにつなげようとする経営手法。18年5月に経済産業省・特許庁が『「デザイン経営」宣言』を発表して以来、デザインの力を意匠や造形・装飾などに限定せず、新しいビジネスの構想や計画・創出などにも生かそうとする企業が増えている。

 そうした実態を分析するため、調査では「自社のデザイン経営の取り組み」について最初に質問。回答結果に対して各企業を、「デザイン経営に積極的」「ある程度積極的」「あまり積極的でない」「デザイン経営に積極的でない」の4つにセグメント分けし、積極度によって回答を比較した。今回の調査では、全体のうち「デザイン経営に積極的」が25.5%で、「ある程度積極的」は31.5%、「あまり積極的でない」が22.3%、「デザイン経営に積極的でない」は20.7%だった。20年の調査より「積極的」な企業がやや増加した。

 デザイン経営に対する取り組みと過去5年間の平均売上高の相関について分析すると、デザイン経営に積極的な企業ほど、売り上げが増加していることが分かった(図1)。「デザイン経営に積極的」な企業では、過去5年間の平均売上高増加率が「20%以上」との回答が12.4%と他のセグメントと比較して多い。「ある程度積極的」は11.1%、「あまり積極的でない」が8.6%、「デザイン経営に積極的でない」は7.7%と、次第に低くなっている。

 売り上げだけではなく、デザイン経営には様々な効果があることも分かった。デザイン経営に対する取り組みと自社のサービスや製品の「コアファン」の状況についても聞くと、「デザイン経営に積極的」な企業は、「同業他社と比較しても“コアなファン”は多い」との回答が71.2%と多かった(図2)。「ある程度積極的」な企業でも46.5%だったので、デザイン経営が顧客満足度の向上に大きく貢献しているようだ。

見えない部分に効果が表れる

デザイン経営に積極的な企業ほど、顧客から愛される

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 さらに、デザイン経営に対する取り組みと従業員の自社の愛着状況について質問した(図3)。「デザイン経営に積極的」な企業は、従業員からの愛着について「とても愛着を持たれていると思う」との回答が23.8%あった。「ある程度積極的」では12.1%だった。

デザイン経営に積極的な企業ほど、従業員から愛される
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 顧客満足度や従業員満足度といった部分は、売り上げとは違って財務諸表に表れにくい。だがビジネスを支える基盤として重要な要素であり、デザイン経営が最も効果を発揮する場面といえる。デザイン経営に積極的であるほど、各指標が高いという傾向は20年の調査と同様だが、今回はより顕著になった。「デザイン経営がビジネス面にプラス効果を与える可能性が明らかとなった」と同リポートは述べている。

 デザインへの投資も、この3年でやや増加傾向にある(図4)。デザイン人材の採用や育成、設備の拡充などデザイン関連への企業投資全般の増減を20年の調査と比較すると、「増加している」との回答は20年の22.6%から23年は26.8%になった。しかし「変わらない」とする企業も20年の24.9%から23年には29.9%に増えるなど、二極化にあるようだ。

デザインへの投資は、この3年でやや増加傾向

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 デザイン経営に対する意識でも、中小企業になると低くなる(図5)。企業規模別にデザイン経営推進に対する積極度を聞くと、大企業は「デザイン経営に積極的」「ある程度積極的」が共に20年より23年が増加したが、中小企業では大きな変化が見られなかった。

デザイン経営の推進は、中小企業よりも大企業が積極的
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デザイナーもビジネス領域に
 今回の調査では、デザイン経営に積極的な企業ほど、デザイン専門組織の役割が多岐にわたっていることが初めて分かった(図6)。例えば「デザイン経営に積極的」な企業では、デザイン専門組織が担う役割は「個別事業/製品/サービスのビジネスモデル全体の設計」が73.8%と最も多く、「製品パッケージの外観に関する色・形の設計」の61.3%を超えるなど、ビジネスにも深く関わっている。
デザイン経営に積極的な企業ほど、デザイン専門組織の役割は多岐にわたる
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 デザイナー向けに、ビジネス関連の教育を強化しようとする傾向も見えてきた(図7)。デザイン経営の取り組みとデザイン系職種に対するビジネス教育の状況について聞くと、「デザイン経営に積極的」な企業は、デザイン系職種にビジネス教育を「積極的に推進している」と21.2%が回答した。
デザイン経営に積極的な企業ほど、デザイン系職種にビジネス教育を推進
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 一方、日経デザイン2023年12月号の誌面には掲載しなかったが、同リポートでは「デザイン経営に積極的」な企業ほど、非デザイン系職種に対するデザインマインドの啓発や、デザイン教育などを実施している傾向を明らかにしている。例えば、技術者にデザインスクールのプログラムを受講させたり、事業開発担当者にデザイン思考を研修したりしている。

 このためか「デザイン経営に積極的」な企業ほど、非デザイン系職種がデザイン活用を重視しているという(図8)。5年前と「非デザイン系職種」におけるデザインの活用(デザイン思考も含む)に対する重視度合いの変化を聞くと、「デザイン経営に積極的」な企業は「5年前と非較して重視するようになった」と51.2%が回答した。

デザイン経営に積極的な企業ほど、非デザイン系職種がデザイン活用を重視
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 「デザイン経営に積極的」な企業ほど非デザイン系職種とデザイナーの連携を強化していることも分かった(図9)。非デザイン系職種とデザイナーの連携を「積極的に推進している」との回答は、38.8%と多い。事業開発などのため、非デザイン系職種にはデザイナーと意見交換することを企業が勧めているという。

デザイン経営に積極的な企業ほど、デザイナーとの連携を推進
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評価の仕組みを整備へ
 デザイン経営を推進するうえでの課題についても聞いた(図10)。すると「費用対効果の説明が困難」が約半数。次いで「経営陣におけるデザインの必要性への認識の低さ」「新商品・サービスデザインをリードできるデザイナーの不足」「中間管理職(マネジャークラス)におけるデザインの素養の不足」「開発担当者におけるデザインの素養の不足」と続いた。課題は20年の調査とほぼ同じ。いまだに解消されていない。
デザイン経営の課題は、費用対効果の説明が困難なこと

 自由意見欄を見ると、「マーケティング担当の立場では、数字に表れづらいデザインという要素は、手に負えないものとして遠ざけられている。数字的効果を求める社員からはデザインという価値観に対して踏み込めない」といった声があった。

 ただし「デザイン経営に積極的な」企業ほど、デザインの有効性評価の仕組みを整備しようと動き出していることも分かってきた(図11)。「デザイン経営の取り組みとデザインの有効性評価の仕組みの整備状況」を聞くと、定量評価や定性評価の仕組みを「整備しており、機能している」との回答が、定量評価で7.5%、定性評価で5.0%あった。実施している企業はまだ少ないが、デザインの成果を今後、どう数値化していくのか。先進企業の試みに注目したい。

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デザイン経営に積極な企業ほど、評価の仕組みを整備
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(グラフは「第2回 企業経営におけるデザイン活用実態調査」から)
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